売上は前より増えているのに、手元に残る利益が増えない、あるいは減ってしまうことがあります。売上が増えても、原価・送料・手数料・広告費などの費用が売上に対して重くなっていれば、利益は増えません。
この記事では、前期と今期の費用を売上に対する割合(費用率)で並べて、どの費用が重くなったのかを一次的に切り分けます。
この記事で扱う「利益」は、売上から原価・送料・売上連動手数料・広告費などの対象費用を引いた「簡易利益」で、会計上の粗利・営業利益・経常利益・純利益とは一致しません。家賃・固定の人件費・システム月額・倉庫の固定費・税金・借入返済・キャッシュフロー・運転資金は含めません。固定費については、最後に確認の観点だけ触れます。
売上と簡易利益率を前期・今期で分けて見る
比べるのは、前月と今月、前年同月と今年同月のように、同じ長さの期間の合計です。季節性が強い商材では、単純な前月比較だけでなく、前年同月なども検討します。1注文あたりの数字だけでは、注文数の増減による期間全体の利益の変化を説明できません。
売上は、値引き後の実際の売上を前提にします。値引き額は売上にすでに反映されているため、費用として二重に引きません。また、売上の定義は管理画面によって異なるため、特定の定義には固定せず、前期と今期で同じ管理画面・同じ定義のものを使います。
この記事の簡易利益と簡易利益率は、次のとおりです。
簡易利益 = 売上 − 原価 − 送料負担 − 売上連動手数料 − 広告費 − その他の売上連動費用
簡易利益率(%) = 簡易利益 ÷ 売上 × 100
- 値引き・クーポン・ポイント:売上から引かれているかを、前期と今期でそろえる
- 返品・キャンセル:計上の条件とタイミングを、前期と今期でそろえる
- 送料収入:売上に含める場合は、配送会社などへ支払った送料の全額を費用側で扱う。含めない場合は、購入者負担分を除いた自社の送料負担分を費用側で扱う
- 税:売上も費用も税込、または売上も費用も税抜のように、同じ基準にそろえる
- 集計期間と集計元:同じ長さの期間、同じ管理画面のデータを使う
商品1点あたりの利益構造を見たい場合は、EC利益計算ツールが使えます。これは1商品あたりの目安を見るツールで、期間全体を診断するツールではありません。商品構成が大きく変わった期間は、代表的な1商品の数字だけでは期間全体を判断できません。使うときは、販売価格に値引き後の実際の販売価格を入力し、この記事の簡易利益に合わせる場合は固定費や税金を入れないでください。
具体例:売上+20%でも簡易利益−20%
前期は売上100万円・簡易利益率30%、今期は売上120万円・簡易利益率20%だった場合で考えてみます。
前期の簡易利益 = 100万円 × 30% = 30万円
今期の簡易利益 = 120万円 × 20% = 24万円
売上の変化 = 120 ÷ 100 − 1 = +20%
簡易利益の変化 = 24 ÷ 30 − 1 = −20%
売上は20%増えていますが、簡易利益率が10ポイント下がったため、簡易利益は20%減っています。「売上が増えた」だけでは、利益が増えたかどうかは判断できません。
費用率を前期と今期で並べる
利益が減った理由を探すには、費用の金額ではなく、売上に対する割合(費用率)を前期と今期で並べて比べます。どの費用率も、前期と今期それぞれの同じ売上を分母にします。値下げは売上にすでに反映されているため、費用の行には入れません(Pattern 2で扱います)。
各費用率の求め方と、費用の区分が重複していない場合の簡易利益率との関係は、次のとおりです。
原価率(%) = 売上原価 ÷ 売上 × 100
送料負担率(%) = 売り手負担の送料 ÷ 売上 × 100
手数料率(%) = 売上連動手数料 ÷ 売上 × 100
広告費率(%) = 広告費 ÷ 売上 × 100
その他変動費率(%) = その他の売上連動費用 ÷ 売上 × 100
簡易利益率(%) = 100 − 原価率 − 送料負担率 − 手数料率 − 広告費率 − その他変動費率
上の表は、先ほどの例(売上100万円→120万円)の内訳を示したものです。前期は100−40−8−7−15=30、今期は100−42−10−7−21=20で、費用率の増加は合計+10pt、簡易利益率の低下は−10ptと一致します。これは費用率の内訳であり、原因の順位を示すものではありません。自社の数字で計算して合計が合わない場合は、費用の漏れや二重計上がないかを確認してください。
金額ではなく率で比べるのは、売上が増えれば費用の金額も増えるためです。たとえば手数料率が7%のままでも、売上100万円なら7万円、売上120万円なら8.4万円と金額は増えます。「費用の金額が増えた」だけでは、悪化したとは言えません。
Pattern 1:原価率が上がった
原価率は、売上原価を売上で割った割合です。売上原価は、その期間に売れた商品の原価であり、仕入れた金額そのものとは限りません。在庫が増減した期は、仕入額と売上原価がずれます。
原価率が上がった場合の候補として、仕入価格の上昇、原価の高い商品の販売比率の増加、商品構成(ミックス)の変化、値下げによる実際の販売単価の低下などがあります。
どれが当てはまるかは、商品別の数字を見ないと分かりません。「仕入価格が上がったから」などと、ここで断定することはできません。
Pattern 2:値下げ・販売価格が変わった
値下げやクーポンで売上が増えた場合、値引き額は実際の売上にすでに反映されています。そのため、値下げ額を費用としてもう一度引くことはしません。この記事の費用率の表にも、値下げの行は入れていません。
値下げは、実際の販売単価が下がり、同じ原価でも原価率が上がって、1個あたりの利益が小さくなるという形で表れます。確認するのは、実際の販売単価、原価率、1個あたりの利益です。
値下げ後に、値下げ前と同じ利益を残すために必要な販売数の考え方は、こちらの記事で整理しています。
Pattern 3:送料負担率が上がった
送料負担率は、売り手が負担した送料を売上で割った割合です。
上がった場合の候補として、送料無料の対象の増加、送料そのものの値上げ、配送サイズの変化、低単価の注文の増加などがあります。1注文あたりの送料が変わらない場合、注文単価が下がると、送料が同じでも売上に対する割合は大きくなります。
送料無料の条件や、送料無料にしても利益が残る購入金額の考え方は、こちらの記事で整理しています。
Pattern 4:広告費率が上がった
広告費率は、広告費を売上で割った割合です。ここでは、ほかの費用率と同じ売上(ショップ全体の売上)を分母にします。
広告媒体の管理画面のROASは広告経由の売上を基準にしており、ショップ全体の売上とは母集団が異なる場合があるため、ROASを広告費率へ換算せず、ショップ全体の売上を分母にして計算します。
広告費をかけても赤字にならないROAS(損益分岐ROAS)の考え方は、こちらの記事で整理しています。
Pattern 5:手数料・その他変動費が増えた
売上に連動して増える費用として、決済手数料、モールの販売手数料、売上連動の販売手数料、売上に連動するポイント原資などがあります。これらは、売上に対する割合(手数料率・その他変動費率)で前期と今期を比べます。
出店料やシステム月額のような固定の月額料金は、売上に連動しないため、ここには含めません。また、すでに売上から差し引かれている項目(値引きとして処理されているポイントなど)は、もう一度費用に入れないでください。
手数料率が上がっているときは、決済方法や販売チャネルの構成が前期から変わっていないかも確認します。
Pattern 6:複数の費用率が同時に上がった
原価率・送料負担率・手数料率・広告費率などが、前期と比べて複数同時に上がっていることもあります。各費用率が何pt動いたかを前期と今期で並べると、増加ptの合計が簡易利益率の低下ptと一致します。
ただし、これは簡易利益率の内訳であり、原因の証明ではありません。最も増えた費用が真の原因とは限らず、費用同士が連動して動くこともあります。たとえば、低単価の注文が増えると、送料負担率や広告費率が同時に上がることがあります。
順位をつけたり、最も増えたptの費用から改善すると決めたりせず、「複数の費用が同時に簡易利益率を押し下げている」ことを確認したうえで、それぞれの費用を個別に見直します。
参考:同じ簡易利益を保つために必要な売上
売上を増やして取り戻せるかを知りたい場合の目安です。今期の簡易利益率がこのまま変わらないと仮定して、前期と同じ簡易利益を保つには、売上を前期比でどこまで増やす必要があるかを計算します。
必要売上増加率 = 前期の簡易利益率 ÷ 今期の簡易利益率 − 1
30% ÷ 20% − 1 = 50%
前期売上100万円 × 1.5 = 150万円(150万円 × 20% = 簡易利益30万円)
- 今期の簡易利益率が0%より大きいこと
- 簡易利益と売上の定義が、前期と今期で同じであること
- 売上を増やしても、今期の簡易利益率が変わらないと仮定すること
- 目的が、前期の簡易利益を維持することであること
- 固定費は含めない、または前期と今期で同額であること
+50%は、前期売上100万円に対する増加率です。今期はすでに120万円まで増えているため、150万円まであと30万円(今期の120万円から見て+25%)が必要になる計算です。なお、売上を増やすために広告費や値引きが増えれば簡易利益率はさらに下がるため、実際にはもっと多く必要になることがあります。
ここまでの費用で説明できない場合は固定費も確認する
費用率を前期と比べても大きな変化がないのに、実際の利益が減っている場合は、この記事の簡易利益に含めていない固定費が増えていないかを確認します。
- 家賃
- 固定の人件費
- システム・ツールの月額料金
- 倉庫などの固定費
- その他の固定費
固定費が前期と今期で変わっている場合、簡易利益だけでは、期間全体の利益が減った理由を説明できません。固定費まで含めて、どれだけ売れれば黒字になるかを確認するには、損益分岐点計算ツールが使えます。ただし、これは固定費まで含めた損益分岐数量を見るツールであり、今期の利益そのものを直接診断するツールではありません。